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   こんにちは!          今日もいい塩梅ですか?


by minmei

耳そうじ

娘達
最近では自分でするほうが気持ちいいらしく
わたしには全くさせてくれなくなった。
さみしい。
今になればあの頃の父が良くわかる。
わたし達兄弟も一人ずつ順番で
父によく耳そうじをしてもらったものだ。
あの大きな耳垢を見つけたときの興奮。
そして取り除いたときの喜び、達成感。
やはり血筋は争えない。
きっと父もそうだったのだろうと
今になってジワジワとあの頃を思い出す。

一人こなすたびに楽しそうに「はい、つぎ~」「はい、つぎ~」と言って
わたしらは流れ作業のような扱いで順番を待っているのだ。
蛍光灯の下の明るい場所に父は胡坐をかいて
その胡坐の片方の太ももの上に寝そべって頭を乗せると
普段父を包み込んでいる父の放つ匂いの域に侵入するのだ。
毎晩晩酌の酒のにじみ出た体臭や、タバコの染み付いた服、
履き古した長靴の匂いや、潮の香り。
いろんな匂いが入り混じっていたが
決して不快ではない匂いだった。
そもそも父は常に清潔にしている人だったから
ほどよい体臭が逆にわたしには気持ちよく感じたもだ。
顔を近づけるとお酒の甘い香りも麻薬のようなものだった。

わたしの耳は小さい。そして耳の穴も小さい。
「おめーの耳の穴はつっつぇー(小さい)なぁ~」
と、初めて教えてくれたのも父だ。
穴が小さいからやりにくそうだったけれど
大きなゴミが取れたときは、わたしの目の前に
耳かきを持ってきてわざわざ見せてくれた。
その時の父の顔は忘れない。
まるででっかい魚が釣れたと喜ぶ少年のようだった。

やはり父は手先の器用な人だった。
生前、晩酌をやっているときに
父と弟と船でウニを取るときの話で盛り上がっていたことがある。
ウニは船の上でカガミをつかって中を覗き込み
網に何個も入れながら獲っていくのだけれど、これが案外難しい。
横で船を漕ぎながら見ていたわたしには実に簡単そうに写るのだが
潮の流れや岩場での網の角度とか海草の隙間やら結構難しいのだそうだ。
あの弟ですら、70になった父にまだまだ敵わないと言っていたから。
そう、父は網でウニを獲るかのごとく
いつもわたしらの耳垢をさも容易く器用に取り除いてくれていたのだ。

・・・・くれていたのだ。



生きているうちに
こんな話もできればよかったのに
こういう話は
亡くなって初めて気づくことばかり。


生きていたら楽しい話が
死んでしまうと涙の流れる話だねぇ。


「お父さん、ありがとね。」


またいつかやって頂戴ね!

またいつか。
by minmei316 | 2013-05-08 18:32